大使レター
 
 
2010年12月

 
 


年の終わりも近づき、常夏のシンガポールでも師走の慌ただしさが感じられる毎日です。私も着任より2ヶ月が過ぎましたところ、本年の日本外交を振り返るにあたって、その主要なイベントとなった11月の横浜APECにつきご紹介をさせていただければと思います。

なお,我が国の外交を皆様に広く知っていただく目的で、今後も定期的にレターをお届けさせていただきたいと考えておりますところ、どうぞ宜しくお願いいたします。




【2010年APEC首脳会議――APECの将来像「横浜ビジョン」に合意】


11月13日〜14日に横浜で開催されたAPEC首脳会議においては、シンガポールからもリー・シェンロン首相をはじめ多数の関係者にご参加いただき、感謝申し上げます。同会議においては、地域経済統合、成長戦略、人間の安全保障を中心に、アジア太平洋の将来像について議論が行われ、首脳宣言として「横浜ビジョン」に合意しました。それは、APECが、更に緊密に高度化した経済統合で結ばれ(「緊密な共同体」)、質の高い成長を実現し(「強い共同体」)、安全で、安心して経済活動を行える共同体(「安全な共同体」)に向かっていくというものです。このような共同体という概念を具体的に定義して明確な目標に掲げたのは今回が初めてであり、APECが新たな段階に入ったとの認識を共有できたのではないかと思います。


具体的には、「緊密な共同体」の実現のため、ボゴール目標達成評価を行った上で、アジア太平洋地域での地域経済統合を更に推進するために、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築に向け具体的な行動を取ることとなりました。つまり、現在進行している地域的な取組であるASEAN+3、ASEAN+6、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定等を基礎として更に発展させることにより、FTAAPを包括的な自由貿易協定とすることを追求していくことになりました。これは、長期的で野心的(aspirational)な目標であったFTAAPがその実現に向けて質的な転換を遂げた大きな成果であったと自負しています。また、「強い共同体」へ向けて、初めて、長期的かつ包括的な「APEC首脳の成長戦略」をとりまとめ、2015年に向け実施することとなりました。国内改革や社会問題を含む広範かつ具体的な内容を含み、また将来のレビューを盛り込んだ今回の成長戦略は、画期的なものではないかと考えます。さらに、「安全な共同体」の実現のため、食料安全保障、防災、感染症への対応、腐敗対策、テロ防止などの人間の安全保障の分野に注力していくこととなりました。


本会議では、APECが地域経済統合の取組を推進していくために、菅総理が議長としてリーダーシップを発揮し、我が国として「国を開く」、つまり我が国経済の一層の自由化に取り組んでいく決意があることを明確に打ち出し、世界、特に発展著しいアジア太平洋地域と共に成長の道を歩んでいくとの積極的なメッセージを出しました。これは、APECがFTAAP構築に向けた具体的道筋を定める上でも有意義なものでありました。


特にTPPについては、先般の日星首脳会談においてもリー首相から発言があったように、シンガポールは日本がTPPに参加することを強く支持していると理解しており、引き続き緊密に情報交換をしながらご相談をさせていただければ幸いであります。ご承知のとおり、日本は来年6月を目途に農業再生のための基本方針を決定し、10月を目途に中期的行動計画を策定する予定であります。このタイミングが日本がTPP交渉参加を考える重要な節目となるでしょう。


以上のとおり、今般のAPECは多くの意味のある成果をあげることができたのではないかと思います。これもひとえにシンガポールが昨年議論の方向性を示し、我々にうまく議長を引き継いでくれたおかげであると感謝しています。今後、APECとしては「横浜ビジョン」の実現に向けて、具体的な行動を取っていくこととなります。本年示された「横浜ビジョン」は来年の米国で開かれる会合に引き継がれますが、同ビジョンが一層具体化し、成果をもたらすことが期待されます。



今後とも,皆様にとって有用な情報を積極的に発信していきたいと存じますところ、本レターに関するご意見、コメント等ございましたら、随時お知らせいただければ幸いです。これからも、日本大使館の活動へのご理解とご協力をどうぞ宜しくお願い申し上げます。


最後になりますが、来年の皆様のご多幸とご活躍をお祈りいたします。




シンガポール共和国駐箚日本国特命全権大使
鈴 木  庸 一